目次
- 1.【はじめに】なぜ今、年金制度の改正を知るべきなのか?
- 2.【早わかり】主な改正ポイント比較
- 3.【最重要】2026年改正で「手取り」が増えるチャンス!
- 4.【要注意】2026年改正で「税金が増える」リスク
- 5.【未来の安心】2027年以降のiDeCoの変更点
- 6.【要チェック】対象者別!今すぐ取るべき行動チェックリスト
1.【はじめに】なぜ今、年金制度の改正を知るべきなのか?
2026年から2027年にかけて、確定拠出年金(DC)の制度が再び大きく変わります。
これらの変更は、「金融商品の勧誘・販売や退職金・企業年金の課税の見直し」を主な目的とした、「令和6年度税制改正大綱」に基づいており、関連法案が2024年(令和6年)の通常国会で可決・成立しました。
この改正の背景には、DCの加入者がより積極的に老後資産形成に取り組めるよう、「自助努力を支援する」という政府の意図があります。
具体的には、
- マッチング拠出の制限撤廃による節税枠の拡大
- iDeCoの拠出・受給開始年齢の延長による長期的な資産形成の促進
など、これらが意図するのは、「個人の努力を税制面から後押しすること」にほかなりません。
つまり、私たちはこれまで以上に、自ら「老後資産づくり」を最大化し、税制優遇を最大限に活用するために、制度変更を理解し、受取時期や拠出額を戦略的に見直すことが不可欠となります。
いま、定年退職を目前に控えた55歳前後の会社員の方にとって、今回の確定拠出年金(DC)の制度改正は、資産形成の「ラストチャンス」と「税金対策」に直結する切実なテーマです。
この記事では、複雑な制度改正をわかりやすく解説し、あなたが「今すぐ」何をすべきかを明確にお伝えします。
2.【早わかり】主な改正ポイント比較
まずは、今回の改正で最も影響が大きい4つのポイントを、現行制度と比較して確認しましょう。
| 項目 | 現行(2025年12月まで) | 2026年4月以降 | 影響 |
|---|---|---|---|
| 企業型DC (マッチング拠出) |
従業員の拠出額は、会社の掛金を超えられない。 | 制限が撤廃される(会社の掛金を超えてもOK)。 (施行時期:2026年4月1日) |
手数料ゼロの節税枠が拡大し、手取りが増えるチャンス。 |
| 退職所得控除 (税金) |
退職金が重複する期間の調整が「5年ルール」で計算される。 | 調整期間が「10年ルール」に延長される。 (施行時期:2026年1月1日) |
退職金とDCの一時金の受取時期を10年以上空けることが重要に。 |
| iDeCo (拠出期間) |
最長65歳未満まで拠出が可能。 | 最長70歳未満まで拠出が可能になる。 (施行時期:2027年以降) |
節税メリットを享受しながら、5年間長く資産形成できる。 |
| iDeCo (受給開始年齢) |
上限は75歳まで。 | 上限が80歳まで延長される。 (施行時期:2027年以降) |
運用期間を長期化でき、老後資金の柔軟性が高まる。 |
3.【最重要】2026年改正で「手取り」が増えるチャンス!
会社員に朗報!マッチング拠出の上限が撤廃されます。
| 変更点 | 影響 | 施行時期 |
|---|---|---|
| 制限撤廃 | 従業員が拠出できる上限額(加入者掛金)は、会社の掛金を超えてもよくなります。 | 2026年4月1日 |
どういう意味?手数料ゼロの「節税枠」が拡大
これまでのルールでは、会社が出す掛金が少ない場合、従業員が自分で上乗せできる金額(マッチング拠出)も少額に制限されていました。
改正後はこの制限がなくなるため、会社の掛金が少なくても、企業型DC全体の拠出限度額(通常、月5.5万円から会社掛金を引いた額)まで、自分で掛金を増やせるようになります。
最大のメリットは、マッチング拠出はiDeCoと違い「手数料が原則ゼロ」であること。
手数料を払わずに、大きな金額を所得控除(節税)に使えるチャンスが生まれます。
「損をしたくない」と考える会社員の方にとって、これは絶対に活用したい制度です。
4.【要注意】2026年改正で「税金が増える」リスク
退職所得控除の「10年ルール」導入
| 変更点 | 影響 | 施行時期 |
|---|---|---|
| ルール延長 | 退職金と確定拠出年金の一時金を受け取る際の、税金計算の調整期間が「5年以内」から「10年以内」に延長されます。 | 2026年1月1日 |
どういう意味?「受取戦略」を間違えると税金が増える
退職金には、税金がかからない枠(非課税枠)である退職所得控除があります。この優遇枠を最大限に使うには、退職金を複数回受け取るタイミングが重要です。
ルール導入後のリスク
会社の退職金を受け取ってから10年以内にDCの一時金を受け取ると、非課税枠が調整(減額)され、結果として税金が多くかかってしまうリスクが高まります。
取るべき対策
DC一時金と他の退職金の受取開始時期を10年以上空けることが、税金を抑えるための鉄則となります。ご自身の退職時期と年金受取開始時期を早めに確認しましょう。
5.【未来の安心】2027年以降のiDeCoの変更点
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、より長く、より使いやすくなります。iDeCoの長期投資で「老後資金の不安を解消したい」という方には朗報です。
資産形成の期間が拡大
| 変更点 | 影響 | 施行時期 |
|---|---|---|
| 拠出期間延長 | 掛金を積み立てられる期間が、65歳未満から70歳未満まで延長されます。(最長5年間) | 2027年以降 |
| 受給開始年齢の上限延長 | 受け取りを始める年齢の上限が、75歳から80歳まで延長されます。 | 2027年以降 |
どういう意味?長く運用してメリットを最大化
65歳以降も働く人が増える中、70歳まで所得控除という節税メリットを享受しながら資産づくりができます。
さらに、受け取りを80歳まで遅らせることで、資産が運用され続ける期間が延び、長期投資の恩恵を最大限に得られるようになります。
iDeCoの拠出上限の簡素化・拡大は「企業型DC一本化」への流れを加速
現行の複雑な拠出限度額の計算方法は、2027年以降、統一・簡素化される予定です。
企業型DCがある会社員は「iDeCo卒業」が合理的、な判断でしょう。
制度が簡素化され、iDeCoの拠出上限が拡大することは一見メリットですが、企業型DCがある会社員にとっては、このメリットを追求する必要性が低下します。
なぜなら、2026年4月以降、企業型DCのマッチング拠出の上限が撤廃され、手数料ゼロで拠出できる枠が大きく広がったためです。
手数料を自己負担しなければならないiDeCoよりも、手数料ゼロでより大きな枠を使える可能性のある企業型DCに拠出を集中させる方が、コスト面でも節税面でも圧倒的に有利になります。
したがって、企業型DCがある会社員は、コストのかかるiDeCoから企業型DCへ一本化し、賢く資産管理をシンプルにする行動が正解となります。
6.【要チェック】対象者別!今すぐ取るべき行動チェックリスト
この改正を「損」ではなく「得」にするために、以下の行動をとりましょう。
すべての方
10年ルール対策の確認
会社の退職金と確定拠出年金の一時金の受取予定時期を確認し、10年ルールに引っかからないかチェックしましょう。
専門家への相談
税制や制度が複雑なため、老後資金計画について不安な場合は専門家への相談も検討してみてください。
会社員の方(企業型DC加入者)
マッチング拠出の増額検討
2026年4月以降、手数料ゼロのマッチング拠出を増額できないか、会社の人事・総務部に確認し、節税メリットを最大化しましょう。
iDeCoとの一本化検討
現在iDeCoを併用している場合は、企業型DCへの拠出上限が拡大することで、手数料がかかるiDeCoから企業型DCへの資産の一本化を検討しましょう。
iDeCo加入者の方
拠出期間の再計画
2027年以降の拠出期間延長(70歳未満まで)を利用して、長期的に積立を継続するかどうか、現在の家計状況と照らし合わせて見直しましょう。
受給開始年齢の検討
受給開始年齢の上限が80歳に延長されることを利用し、年金の繰り下げ受給や、より長い期間の運用継続を視野に入れた計画を立てましょう。
会社の人事・総務担当者の方
制度規約の改定準備
2026年4月施行のマッチング拠出上限撤廃に向けて、企業型DCの規約改定や、従業員への情報提供・教育の準備を始めましょう。
税制リスクの周知徹底
従業員に対して、退職金とDC一時金の受け取り方による「10年ルール」のリスクについて、制度が施行される前に注意喚起と教育を実施しましょう。
参考資料
参考資料
注3)確定拠出年金(DC)制度の主な変遷
| 年代 | 時期 | 制度 | 主な変更点 | 影響 |
|---|---|---|---|---|
| 2001年 | 10月 | 施行 | 制度スタート。 企業型DC、iDeCo(個人型DC)が開始。 | 企業年金のない企業を中心とした、自助努力による老後資金準備の仕組みが誕生。 |
| 2012年 | 1月 | 改正 | iDeCoの加入対象者拡大(初期)。 企業年金(確定給付年金など)がある企業の従業員も、規約の定めによりiDeCoに加入可能に。 | 企業年金併用者の私的年金選択肢が拡大。 |
| 2017年 | 1月 | 大改正 | iDeCoの加入対象者の大々的な拡大。 公務員、専業主婦(第3号被保険者)、企業年金加入者など、ほぼ全ての現役世代が加入可能に。 | 国民全体の老後資金形成を促進。 掛金全額所得控除の税制優遇を受けられる層が大幅に増加し、制度利用者数が急増。 |
| 2022年 | 5月 | 改正 | 老齢給付金の受給開始時期の上限を延長。 70歳→75歳まで選択可能に。 | 資産運用期間の延長が可能に。 60歳以降も最大15年間、非課税で運用を継続し、繰り下げによる受取額の増加を狙えるようになった。 |
| 2022年 | 5月 | 改正 | 企業型DCの加入可能年齢拡大。 65歳未満→70歳未満(企業規約による)へ拡大。 | 高年齢雇用者など、長く働く人の拠出期間を延長。 60歳以降の継続的な資産形成を支援。 |
| 2022年 | 5月 | 改正 | iDeCoの加入可能年齢拡大。 60歳未満→65歳未満(国民年金被保険者であることなどの要件あり)へ拡大。 | 60歳以降も働くなど要件を満たす人が、65歳まで節税しながら積み立てを継続できるようになった。 |
| 2022年 | 10月 | 改正 | 企業型DCとiDeCoの併用要件緩和。 企業型DCで「マッチング拠出」を利用している場合でもiDeCoに加入できるようになるなど、併用が容易に。 | 企業型DCの掛金が少ない人が、iDeCoで自己拠出額を増やしやすくなった。 |
| 2026年 | 12月(予定) | 変更 | 拠出限度額の計算方法を「一本化」。 企業型DCとiDeCoの限度額計算が共通ルールに統一される。 | 制度の分かりやすさが向上。 特に企業年金とDCを併用する人の限度額計算の複雑さが解消される見込み。 |
| 2028年 | 4月(予定) | 変更 | 企業年金からの移換(ポータビリティ)における待期期間の撤廃。 企業年金(DBなど)を脱退した後のiDeCo加入の待機期間(最大1年半)がなくなる。 | 転職時に資産運用の中断期間を防げるようになり、加入者の利便性が向上。 |
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